【コラムでも】庵字会長に聞く!バカミスの世界 ※ネタバレ注意※

【youtube動画】「【ネタバレ注意!】庵字会長に聞く!バカミスの世界!withスペシャルゲスト樹智花さん」で、庵字会長が用意してくれたレジュメを特別にコラム公開します!動画をご覧になりたい方はこちら。

①バカミスの定義

 主観。読者が「バカだなあ」と感じたらそれがその人にとっての「バカミス」。

 無茶すぎるトリック、犯人の常軌を逸した行動、冷静に考えれば笑えるシチュエーション、などなど、「バカ」と感じる要素は人それぞれ。読者の数だけバカミスはあります。

 そう考えると、すべてのミステリは「バカミス」になる素養を備えている、とも言えます。

 特にシチュエーションは、文章のみという小説の形式に誤魔化されがちですが、ビジュアル化したところを想像してみると、「これはバカだぞ……」と思えることが多いため、「バカミス」を楽しめる、感じられる人は、想像力が豊かだとも言えるのではないでしょうか。

「ミスフリ」のエッセイでは長編のみを紹介したので、今回は短編に絞って三作紹介します。ネタバレもしますので、短編ならダメージも少ないかなと思います。

②バカミス三選

 それぞれについて「事件の概要」「探偵役の簡単な紹介」「謎を解くために出された手がかり」「真相」「推理のポイント」「バカミスポイント」の六つを挙げて、最後に作中で探偵役が言った印象的なことばを引用して終わりたいと思います。

・「ノックスの十戒」でおなじみの人。カトリックの司教でもあった。

~事件の概要~

 百万長者の被害者が密室状態の建物の中から死体で発見された。死因は餓死。

 被害者は東洋の神秘主義に傾倒しており、「不死の秘法」を発見するため「実験室」と呼ばれる密室に誰にも邪魔をされないよう鍵をかけてこもることがたびたびあった。そこで眠る際、彼は睡眠薬を飲んでいた。

 十日前も被害者は修行のために「実験室」に入り、死体はその「実験室」にあるベッドの上で発見された。室内にはじゅうぶんな量の食料が手つかずのまま残されていた。唯一の出入口である扉には内側から施錠がされていた。

~探偵~

マイルズ・ブレドン

 私立探偵。生命保険会社から保険加入者の不可解な死を調査する契約を交わしている。

~手がかり~

・「実験室」は広い部屋がひとつしかない建物で、元々は屋内運動場だった。出入口はドア一箇所のみ。高さ40フィート(約12メートル)の天井の中央に丸い穴がある。その穴にはガラスが張られていて、隅には換気のために隙間が開けられているが、人の手がやっと通るだけの幅しかない。その穴を中心にした四箇所の天井に鉤が取り付けられている。これは「実験室」が運動場だった頃の名残で、のぼり綱を提げていたものだった。

・床の中央にベッド。この上で死体は発見された。ベッドには鉄の手すりと、脚には移動用の車輪が取り付けられている。ベッドの上には死体のほかには何もなく、毛布や敷布はベッドの周囲に無造作に散らばっていた。部屋には鉛筆とノートもあったが、何も書かれてはいなかった。

・床にはベッドに付いている車輪を転がした跡がついていたが、その跡がベッドの車輪の位置と繋がっていない。

・「実験室」は人家から離れた広い土地に建っていた。

・被害者は高所恐怖症だった。

・被害者には、神秘主義を通じて知り合った「光明の兄弟」と呼ばれる四人のインド人の仲間がおり、自分の死後はこの四人に遺産を相続させることになっていた。四人には被害者の死亡推定時刻に完全なアリバイがある。

~真相~

 犯人は四人の「光明の兄弟」たち。四人は天井に登り、被害者がベッドで寝静まるのを待つと、ガラス窓の隙間から先端に鉤爪を取り付けた四本のロープを垂らし、その鉤爪をベッドの手すりに引っかけて引き上げる。天井近くまで引き上げたら、天井に取り付けられている鉤にロープを結わえてベッドごと宙吊りにした。その間、睡眠薬が効いていたから被害者が目を覚ますことはなかった。その際、ベッドから毛布などの寝具を取り払い床に落としていた。高所からの脱出用具として使用されるのを防ぐため。

 覚醒した被害者だったが、40フィートもの高所から、まして高所恐怖症であるため飛び降りることは出来ず、助けを呼ぼうにも周囲に人家はなく、そのままあえなく餓死してしまった。被害者が餓死したことを確認した兄弟らは、もとのようにベッドを吊り下ろしたのだった。

~推理のポイント~

・犯人たちがベッドを吊り卸す際に着地位置が若干ずれてしまい、床に残された車輪の跡とベッドの脚とが繋がらないというおかしな状態になった。

・餓死というからには即死ではないはず。自分にどんなことが起きたのかを被害者が書き残してもいいはずなのに、ノートはいっさい使われていなかった。

~バカミスポイント~

 ベッドを宙吊りにして餓死させるというシチュエーションが圧倒的にバカ。

 被害者が目を覚ましてから死ぬまでの状況が悲劇的であり喜劇的でもある。12メートルは四階建てに相当する高さ。飛び降りてもワンチャン死なない可能性もあるが、被害者は飛び降りる踏ん切りがつかなかった。

 四人の犯人が完全に息を合わせないと実現不可能な犯行。ひとりでもズレればベッドが傾いて被害者が落ちてしまう。

 図解がなく、引き上げたベッドをどうやって天井の鉤に固定したのか、などの詳細が誤魔化されていて、その緩さもバカミスポイント。

~探偵のことば~

「外部から凶器をもちこむことは、必ず失敗に終わる。相手の習性を研究し、相手の生き方に応じて殺す」

「高天原の犯罪」1948年
作者:天城一

・本業は数学者。商業出版よりも同人誌に掲載された作品が多かった。

~事件の概要~

 ある農村に拠点を置く新興宗教の教祖が、「高天原」と呼ばれる教団本部建物内の教祖専用の部屋「神殿」で死体となって発見された。死因は絞殺。現場は二階で出入口は階段一本しかなく、その階段の下には二名の歩哨が立っており、「怪しい人物は誰も上がっていない」とそろって証言している。

~探偵~

 摩耶正。 

 哲学者。警察に協力する素人探偵。

~手がかり~

・事件が起きたのは、太平洋戦争終結から三年後の1948年(作品発表と同年)。

・殺された教祖は教内において絶対的な権威を持っていた「現人神」。

・二人の歩哨はともに熱心な信者で、虚偽の証言をしているとは考えられない。

・容疑者:第一巫女、第二巫女。ともに教祖に仕えている。

~真相~

 犯人は第二巫女。起床して用足しに行き「神殿」に戻る際、教祖の後ろに付いていった。絶対的な存在である教祖のことを「見ることすら恐れ多い」として、教祖が移動する際には、信者は皆、平伏してその姿を見ないようにしていた。だから歩哨は教祖の後ろに付いていく第二巫女のことも見えなかった。

 現場で教祖を絞殺したあと、第二巫女は教祖の振りをして、教祖が言付けを書き記した「御神示」を第一巫女に受け取りに来るよう言いつけ、それを持って神殿から出てくる第一巫女の後ろに付いて脱出した。「御神示」といえば「教祖の分身そのもの」だから、それが通過するときもやはり歩哨は平伏してしまい、第二巫女の姿を見ることはない。

~推理のポイント~

 摩耶は、この事件が「新興宗教の内部」という特殊な法則が支配する中で行われたことに目を付けた。犯人がどうやって「神殿」に出入りしたのかさっぱり分からない、と悩む刑事に、「この事件を可能にしたのは『ある法則』だ」と見抜き、それは「我々にも三年前まではなじみの深かったが、今は廃れてしまった『法則』だ」と示唆する。

~バカミスポイント~

 教祖、御神示を運ぶ第一巫女の後ろをこっそり付いていく犯人の様子を想像したら、あまりにもバカなシチュエーションに笑えてしまう。気付かれなかったの? 気付かれたら「お前なにしとんねや」と突っ込まれて終わり。

 社会派的なシリアスな事件とのギャップが良い味を出している。

~探偵のことば~

「(前略)そんな考え方をしているから、この事件が解けないのさ。もっと、高天原的に考えなければダメさ。地上的思考法では、この事件は解けやしないよ」

「とある密室の始まりと終わり」2016年
作者:東川篤哉

・ユーモアミステリの巨匠。シリーズ探偵鵜飼杜夫が登場する「烏賊川市シリーズ」は実写ドラマ化もされている。

~事件の概要~

 窓や出入口がすべて施錠された密室状態の家の浴槽からバラバラ死体が発見された。犯人はどこに消えたのか。

~探偵~

 鵜飼杜夫

「千葉の東、神奈川の西」に存在するという「烏賊川市」に探偵事務所を構える職業探偵。

~手がかり~

・浴槽は被害者の血で真っ赤に染まり、切断面を見せた腕や脚が浮いており、死体発見時、家の主人である塚田政彦の顔が水面に浮いた状態だった。

・家は完全な密室状態で、探偵、鵜飼は居間の窓ガラスを割って中へ入った。その窓には開けると挟めていたテッシュが落ちる仕掛けをしていたが、テッシュは無事だったため、探偵が屋内を調べている最中に犯人がそこから逃走した可能性はない。

・バラバラ死体発見後、すぐに浴槽に蓋をしたのだが、家の飼い犬がその蓋の上にずっと座っていた。

~真相~

 犯人は浴室で死体を切断していたが、切断を終えたタイミングで探偵が家に入ってきてしまった。逃げ場を失った犯人は咄嗟に切断した死体とともに浴槽に入り、バラバラ死体の振りをしていた。呼吸をするために水面に潜るわけにはいかないので、本来の死体の頭部を抱えた状態で顔だけを水面から出していた。探偵は犯人の顔を死体の頭部と誤認してしまった。浴槽の水は血で濁っていたため、身を沈めた犯人の体が見えることはなかった。

 犯人は探偵が死体を発見したあとに隙を見て逃げようと思っていたが、飼い犬が浴槽の蓋の上に乗ってしまい、無理やり蓋を開けると犬が騒いで気付かれてしまうため、浴槽の中で自分が切断したバラバラ死体とともに身を潜めているしかなかった。

~事件のポイント~

(※この事件は「犯人は家に入っておらず、浴室の窓から浴槽に死体を投げ入れたのではないか? 死体が切断されていたのはそのためなのではないか?」という犯行が可能か確かめるために、死体の頭部を持ち上げようとしたが、それは死体ではなく犯人の頭部だったためトリックが露見する、という結末で、探偵が推理によって導き出した結論ではない。そのため「推理のポイント」ではなく「事件のポイント」とした)

 家屋が完全な密室状態だったため、犯人が脱出できた可能性はない。ならば、犯人はまだ必ず屋内に潜んでいるはず。以外な隠れ場所。

 捜索の隙に犯人が逃げ出した、という可能性を封じる探偵の仕掛け。

 被害者と犯人の短期的な入れ替わり。

 本作は短編だが、長編であれば、探偵の隙をついて犯人が逃げ出し、発見時と被害者が変わっている、という展開も考えられた。

~バカミスポイント~

 犯人の置かれたシチュエーションを思うと涙を禁じ得ない。

 グロテスクさの中にユーモアがあり、「恐怖と滑稽さは紙一重」だと思わせられる。

~探偵のことば~

「(前略)本来、バラバラ殺人というものは、死体を遺棄するためにおこなうものだろう。(中略)だが、この犯人は(中略)死体を解体しただけで運び出していない。これはいったい、どういうことなのか……」

  

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