コラムを更新しました:バイブルとしての『抹殺ゴスゴッズ』感想
文学フリマ広島8_雑感
飛鳥部勝則『抹殺ゴスゴッズ』、おもろい。
こんにちは!尾ノ池です。
先日、新生ミステリ研究会のスペース読書会にて、飛鳥部勝則『抹殺ゴスゴッズ』を取り上げました。
(会の様子はこちら)
いや~面白かった。狂気と本格ミステリと愛のお話です。
読書会で話し合ったことも参考にしつつ、尾ノ池が特に感動した点を「バイブルとしての『抹殺ゴスゴッズ』」の感想としてまとめていこうと思います。
まずはネタバレなしの紹介です。
(早川書房HPより)
『堕天使拷問刑』の著者が放つ特濃本格ミステリ
ゴッドが好きな高校生の詩郎が出逢った、自分が空想で創ったはずの神の正体とは……? 地元の名士が殺害され、脅迫していたという謎の怪人・蠱毒王とは何者か……? 二つの迷宮的な事件が複雑怪奇に絡み合い、恐ろしいカタストロフィが待ち受ける本格超大作!
殺ゴスゴッズ: 書籍- 早川書房オフィシャルサイト|ミステリ・SF・海外文学・ノンフィクションの世界へ
以下、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
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では、ネタバレ+感想パートです。
本作の構成は、令和編と平成編でできており、それぞれの編で殺人事件や痛ましい事件が起きていきます。それらの事件が複雑に絡み合いながら、真相に至り、衝撃のラストに繋がっていきます。
まず本作の展開は、高校生の利根詩郎が、学校で木槍聖夜と出会い、二人で悪魔の神様(たち)「ゴスゴッズ」、また怪神「コドクオ」を創るところから始まります。神様が単数か複数か分からないため、複数形になっているのですが、この”複数形”もコドクオの正体に関わる伏線となっています。
詩郎が同級生の西郷寺桜がヤクザに絡まれているところを助けようとして反撃にあい、その際に創造した怪神、コドクオが現れ詩郎を助けました。その後、詩郎と聖夜は悪魔崇拝を行います。二人は白骨死体の殺人事件から、ルーベンスの絵が盗まれる事件へと巻き込まれていきます。
本作は令和編と平成編が交互に進み、最後に時代が繋がる構成を取っています。平成編は作中作という扱いです。平成編では、詩郎の父である利根正也が住む雪出市鉾先町アタゴ山の金山坑道で死体が見つかる密室殺人が起きます。関係者も不審死を遂げ、謎の蠱毒王に関する写真が届くなど、事件はこの坑道で過去に起きた強制集団死事件に関係しているのではないかとされました。その事件というのは、名家神門医院が精神病の患者を金山の奥に閉じ込め、餓死させたというもの。飢えに苦しむ患者がお互いを食すために争い、蠱毒の状況を生み出してしまったというものです。神門は、妻の浮気相手である赤松紋太に嫉妬し、彼も鉱山の牢に閉じ込めてしまいました。餓死の争いから生き延びた赤松は、蝋人形師となって争いの場面を坑道に芸術として復活させます。正也は神門考一がタガネで殺されているところを発見。そして、正也は、考一のガールフレンドの小竹良子と赤松を追い詰めました。
結局のところ、犯人は神門ルル。平成編では、道徳に反するという理由だけで殺人を犯しました。密室の状況は、ルルに好意を持っていた考一が死体を移動させてできあがってしまったもの。犯人のルルは関係者や考一を殺してしまいます。そして坑道のなかで、正也に突き落とされ死んだと思われていたものの、実は生きており復讐を胸に秘めていたのでした。
令和編では、犯人ルルが九相図を描き上げるべく死体が腐る様子を絵にしたというもの。詩郎の父を殺したのもルル。
イニシャルK・Rというヒントが出てくるのですが、これは小竹良子のミスリードであり、本当は神門ルルでした、という流れ。
本作は令和の殺人事件と平成の殺人事件、鉱山の強制餓死虐殺、ルーベンス盗作事件の複数の事件が絡まっていたため、謎が謎を呼ぶ展開となっていました。終盤になり、詩郎がルーベンス盗作事件のためにヤクザに絡まれたところ、コドクオにより窮地を打破しました。コドクオの正体は詩郎と聖夜の儀式によってコドクオを憑依させた状態であることが明らかになり、二人は仲間とともにピンチを切り抜けます。
そして火山噴火(!)。二つの事件の犯人であるルルは死に、事件は灰の下へ。詩郎は、聖夜に別れを告げ、記憶を失った西郷寺桜と出会い直すことにより、大団円を迎えました。
この壮大な叙述詩に対して、考察厨の尾ノ池が特に感動した点は以下です。
①悪魔崇拝から人間愛へ 逆堕天のおはなし
主人公詩郎は友人の聖夜と一緒に悪魔の神様(たち)を崇拝し、戒律を定め崇拝します。これにより、コドクオを召喚していきます。
戒律は以下、アンチ十戒です。
一 神は複数神である。
二 偶像を崇拝せよ。
三 神の名を呼べ(コドクオを呼べ)。
四 主の日など吐き捨てろ。
五 父母を蔑め。
六 殺せ。
七 犯せ。
八 盗め。
九 騙せ。
十 むさぼれ。
うーん、まさに外道(笑)。中二病感がいいですね。
これらを守ることは、外道に進むことを意味します。しかし、主人公や聖夜くん以外のキャラクターがぶっとんでいるため、戒律を守っても、あまり人の道を踏み外しているように見えません(笑)。主人公には迷いや悩みがあるため、どのキャラクターたちよりも人間らしく、読者の感情移入が進みます。
コドクオの正体は、実は詩郎と聖夜くん。聖書では、「はじめに言葉ありき」というフレーズが有名ですが、この讃美歌の力により憑依の儀式が成立します。どちらかの身体が器となり、讃美歌によってトランスを果たしてコドクオを憑依させ、力を発揮させる。最初にコドクオが出現したときはダークファンタジーかと思いましたが、実際の宗教儀式にもよくある憑依行為によってかなり具体的に神が出現するのは、驚きの仕掛けでした。この真相を最後に明かすことによる叙述の力、小説にしかできない技法だとかなり感動しました。
そして本作の解決編を経て、真相に至ったところで、主人公は人間愛に気づきます。悪魔崇拝(堕天使)を進めていった末に隣人愛に至るのです。通常、神への信仰により隣人愛を信じるという祈りのプロセスを経ますが、堕ちていくプロセスを経て隣人愛に至るという逆堕天のプロセスを経ることが本作の特徴です。
この効果により本作は逆説的にバイブルの語りを含んでいるのではないでしょうか。
悪魔の神に祈ることによって迷える子羊が、真実に至り、言葉を得ることによって人と出会い直し、隣人愛に気づく。
逆説的ではありますが、目覚めの物語としてバイブルと同じ機能を有しています。
②主人公の対比としての偽善者、そしてその者への天罰
一方、本作の犯人ルルは、主観的な道徳を説き、善を理由に悪を成したとされるものを殺していきます。偽善者です。
主人公は悪を説いて、愛に至る。
犯人は善を説いて、死に至る。
このコントラストはバイブル的メッセージが非常に色濃く出ています。
そんななか、最後に犯人を裁くのは、日本の司法制度ではなく火山という自然現象でした。
いわゆる「天罰」です。
火山は大地の怒りとも呼ばれます。その火山によって、偽善者は天罰を受ける結末です。
これはバイブルとして示唆的なのではないかと思います。
③さいごに~使者としての木槍聖夜(説)
ブロマンス大好き尾ノ池にとって、聖夜くんは非常に大好きなキャラクターです。以下は腐女子の戯言と思ってください(笑)。
木槍聖夜くん、キリスト教信者だけど、前科があって、フィジカルに強い。主人公想い。
(個人的には、エヴァンゲリオンの渚カヲルくんを彷彿とさせます。)
エヴァと言えば、ロンギヌスの槍。
聖夜くんの苗字も「木槍」ですよね。
ちなみにロンギヌスの槍とは、聖槍(せいそう)ともいい、十字架にはりつけられたイエス・キリストの生死を確かめるのに使われた槍のことです。イエスの血に触れたものとして聖遺物として扱われています。この槍を刺したのが、伝統的にロンギヌスと呼ばれているそうなのですが、実際に刺した人物名ではなく、後世の創作だそうです。
そして聖夜という名前は、キリストが生まれた日のことを指します。
主人公は木槍聖夜と出会い、また別れることによって、隣人愛に至ります。
つまり主人公は木槍によって一度死んで(槍)、生まれ変わった(聖夜)ってコト…!!?
なんと愛おしい…!
聖夜くんは本作における神の使者説を、尾ノ池は声高に叫んでいきたいと思います。
そんな隣人愛に至った主人公と、記憶を無くした(生まれ変わって贖罪を越えた)桜との出会いのシーンは、まるでアダムとイブの再会のよう。これはほぼこじつけかもしれないですが、こうして物語は幕を閉じ、新しい創世記に続いていくのでしょう。
~本当のさいごに
読み終わった後、深いため息をついてしまった本作。飛鳥部勝則、たくさん読みたい!と同時に、本作を彷彿とさせる作風の作家さんを思い出しました。凛野冥さんです。最近、新生ミステリ研究会の飛鳥部勝則じゃないかと勝手に私が思い始めた凛野冥さんの作品は、エログロ青春ナンセンス本格ミステリのテイストを存分に含んでいます。
凛野冥さんの小説家になろうはこちら。
抹殺ゴスゴッズに感動した人は、ぜひ「マイスメガロマニアック」を読んでください!まじで精神性が通じます。本作は文学フリマでしか買えないので、ぜひお買い求めください!
ではここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
ありがとう、世界!