


コラムを更新しました:偉大なる横溝正史!新生ミステリ研究会メンバーのおすすめ作品をご紹介!

コラムを更新しました:会長庵字が「かっこいいタイトル」に着目してミステリを紹介します!

日本の本格ミステリの歴史を担う横溝正史作品。彼の作品を実は読んだことはない、という人も金田一耕助(またそのお孫さんも)の名前は知っているのではないでしょうか。新生ミステリ研究会メンバーがネタバレなしのあらすじと読みどころを今回ご紹介します!(敬称略。あいうえお順)
★『夜歩く』(庵字)
~あらすじ~
「汝夜歩くなかれ」差出人不明の怪文書が、古神家の令嬢、八千代のもとに舞い込んだ。売れない小説家の屋代寅太は、友人である仙石直記から、八千代の周囲に巻き起こる怪しい事件と、それに関わる人物たちの話を聞き、実際に古神家を訪れることとなる。そこで発生する首斬り殺人。捜査依頼を受け現場に乗り込んだ金田一耕助は、凄惨な殺人事件の謎を解き明かすことができるのか?
~おすすめポイント~
金田一耕助ものほど、作品によってメジャーとマイナーの差が激しいシリーズはないでしょう。超メジャーに分類される作品は何度も映像化されていることで、『犬神家の一族』や『八つ墓村』などは、それはもう日本で名前を聞いたことのない人はいない、というほどミステリに興味のない人たちにまでタイトルが浸透しています。そこへ来て、この『夜歩く』、ご存知の方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。「カーのデビュー作でしょ」と勘違いされる方のほうが多いかもしれません。
かように金田一ものの長編としてはメジャーとは決して言いがたい本作ですが(それでも過去に二度テレビドラマ化はされています)、知名度と面白さが決して比例しないのがミステリの不思議なところ。『夜歩く』は、コアなミステリファンには大きな支持を得ている(と信じたい)「知る人ぞ知る傑作」なのです。
基本、金田一ものは三人称記述ですが、本作はそこからしてイレギュラーです。あらすじに書いた、売れない小説家の屋代寅太視点の一人称の小説なのです。これもあらすじに書いたように、事件が発生してしばらくしてから、依頼を受けて金田一が臨場するという内容のため、金田一の登場も中盤になってからです。一人称ですから当然、金田一耕助も屋代寅太の目を通して描写されるわけですが、これがなかなか面白く、金田一耕助のことを知らない屋代は初対面で、貧相な男だな、くらいの感想しか持ちません。金田一耕助の風体が一見貧相に見えることは、三人称の小説でも同じように語られはするのですが、我々読者は、すでに金田一が名探偵であることを知っており、三人称の文体もそのことを共有していますから、本気で金田一がただ貧相なだけの男として書かれるわけはなく、行間に「貧相に見えるけどこいつは凄いよ」という認識が隠されているわけです。しかしながら、本作の視点人物である屋代は違います。本気で、なんだこの変な男は、と怪しみ、実は金田一が探偵で、事件捜査を依頼されて訪れたと知らされても、こんな男に事件が解決できるのか? と完全に呆れた目で見ています。ここで我々読者は、「屋代くん、まア見ておいてくれたまえよ」と優越感に浸れるのです。所轄だけでは手に負えなくなって、県警から磯川という警部が来ることになった、と聞かされると、これであの金田一もお払い箱だな、という仙石直記の意見に屋代も同調しますが、その磯川警部と金田一が親しげに話し込んでいるところを目にして目を見張る、という痛快な場面もあります。
一人称視点で事件が語られる面白さだけでなく、本作はミステリとしても見所の多い作品です。当然のことながら、「首なし死体=被害者と犯人の入れ替わり」というミステリの不文律を念頭に置いて、金田一(と我々読者)は推理をするのですが、これがなかなか、面白い展開を見せます。ある不可能状況が出てきて、それを前提に逆算して推理した結果トリックを看破する場面など、かなり本格度高めだと思います。
金田一ものの長編のメジャーどころといえば、「映える」舞台設定が魅力なもの(だからこそ映像化に向いているのでしょう)が多いですが、本作も負けてはいません。それに加えて本格度も高く、ミステリファンなら読んでみて損のない傑作だと信じています。
★『貸しボート十三号』(樹智花)
~あらすじ~
日曜日、隅田川で首を切られた男女の遺体が貸しボート内で発見される。女性は絞殺、男性は刺殺後に首を絞められていた。両者とも首を切断されかけていたが、途中で作業が止まっていた。ボートを借りた謎の人物。金田一耕助は、事件の調査に乗り出すが、事件は思わぬ方向に……。
~おすすめポイント~
本作の事件は、謎解きミステリとして非常に魅力的な状況になっている。「頭部のない死体」は謎解きミステリにおいて魅力的な謎を作り出すためのガジェットのひとつだ。しかし本作では、「中途半端に首が切られた死体」という「頭部のない死体」が持つ謎解きミステリとしての利点を捨て、「なぜ頭部を隠さなかったか」というwhyに焦点を当てる物語になっている。このように謎解きミステリとしての定石から離れ特異な謎を作り上げる横溝の発想力と、それをきちんと良質な謎解きミステリに落とし込む力量、そして横溝の天性のストーリーテリングにより、本作は知る人ぞ知る隠れた名作となっている。
★『獄門島』(尾ノ池花菜)
~あらすじ~
1946年、探偵・金田一耕助は、戦死した戦友・鬼頭千万太の遺言を受けて、彼の三姉妹を守るため瀬戸内海の孤島・獄門島を訪れた。島には封建的な因習が残り、鬼頭家の本家と分家が対立していた。そんななか本家の、千万太の父が発狂し、三姉妹(月代・雪枝・花子)は孤立していた。千万太の死後、三姉妹が次々と殺害されていく。一人は逆さ吊り、一人は釣鐘の中、一人は絞殺されて周囲には萩の花が置かれていた。この見立て殺人にはどんな意味があるのか。なぜ三姉妹は殺されたのか。解決への手がかり、犯行動機、真実の先にどんなドラマがあるのか。戦後すぐの時代背景も活き活きとした作品。
~おすすめポイント~
私と獄門島の出会いは、実は横溝正史ではなく、大好きで何回も見たミステリードラマ『TRICKシーズン1』の9話、10話の舞台「黒門島(こくもんとう)」でした。「こくもんとうぅ!」と訳も分からず連呼していた幼き日の尾ノ池。まさかそれが横溝正史『獄門島』のパロディだったとは。
本作は金田一耕助シリーズとしては二作目。『本陣殺人事件』の次の作品です。超有名どころです。島×因果×美人三姉妹×謎の見立て殺人、う~ん、この魅力的な舞台。三姉妹の殺害方法も謎に満ち溢れていて、そこに隠されたメッセージには驚きの一言。やっぱりね、謎の見立て殺人に対して、この見立てが何なのかを考える、(絶対に当たらないかもしれないけど)想像をめぐらす、という楽しみ方は、唯一掛けかえのない嗜好だと思います。こちらの作品を読むと、ドラマ『TRICK』、有栖川有栖の短編「ミタテサツジン」や金田一少年の事件簿も含め、後世の作品にパロディとしても、参考文献としても取り上げられていることに気づきます。やはり原点を読んでおくと、作品への思い入れ、またミステリの連綿たる歴史的文脈を感じられるかと思います。
さて、横溝正史作品、多すぎて、何から読もうかな~、悩むな~というそこの貴方。大丈夫です。おすすめ作品を集めた【ルーレット横溝】をまわしてみてください。
好きなところで動画を止めてみて、そのタイトルが次に読む横溝作品の参考になれば幸いです(※止め場所によってはタイトルが見えないので、その場合はもう一回押してみてね)。思いがけない出会いがあるかもしれません。
さあさあ。横溝正史の世界にどっぷり浸かりたくなってきた頃合いでしょう。
大丈夫です。
6月13日(金)20時から『本陣殺人事件』のZOOM読書会を行います。
飛び入り・聞くだけOK!顔出しなし、ハンドルネーム参加も大歓迎です。
ぜひ遊びに来てください!
https://us06web.zoom.us/j/82218276919?pwd=FttVZ0UbKszMHb8vmD4ljiysQf2rZV.1