


コラムを更新しました:いかにして面白い新刊を見つけ出すか

いかにして面白い新刊を見つけ出すか

まず、研究会の他の面々がミステリについて語っているので、自分がそれをやっても負けるな、というのが最初にありまして。勝ち負けじゃあないんですけど、もちろん。それとあと、ミステリ好きな人は大体SFも好きなんじゃないでしょうかという偏見があります。SFにもルールとロジックとトリックがある場合が多いですからね。
というわけで、他のメンバーが語らない分野ということでSFについてご紹介をしていこうかと思います。で、以下が留意点です。
①ミステリ読者だけどSFはあんまり(初心者)という人を対象にしてます。なので、マニアックなのはないです。
②SFミステリではなくてSFです。SFミステリにしちゃうとそれはもう特殊設定ミステリの一種なので。
③面白さではなくて、あくまで「ミステリ読者へのおすすめ度」で選出しています。(当然どれも超面白いのは前提ですが)なので例えば「虐殺器官」とか「ユービック」とか「猫のゆりかご」とか「ハイペリオン」とかetc.etc……は入っていません。
1 「われはロボット」アイザック・アシモフ
いきなりクラシック。ふざけるなと怒る人もいるかもしれませんが、まあまあ、初心者の方に向けてってことでひとつ。
かの有名なロボット工学三原則の発明でも知られておりますが、「その三原則があるのになぜこんなことが?」というホワイダニットのミステリとして読むことができる短編集です。というか、SFミステリぎりぎりです。
これがもうちょっといくともうミステリになります。SFミステリクラシックの「鋼鉄都市」がそれにあたりますか。まあ、ともかく、SFというのが本質的にミステリ的側面があるというのを一番理解し易いのがこの「われはロボット」なのではないでしょうか。
2 「三体Ⅱ:黒暗森林」劉慈欣
かの「三体」なんですけどⅡです。三部作ですが明らかにⅡがミステリ読者に刺さる形態をしています。じゃあⅡから読めばいいかというと、うーんさすがに三体はⅠから読まないとわけわかんないと思うんで、Ⅰから読んでください。まあ、Ⅰも面白いですよ(上から目線)。
じゃあⅡのどこが刺さるのか、なんですけど、その部分だけ取り出して超ざっくりとした多分細かいところ間違っている紹介をしていくと以下のような感じです。
地球文明よりも優れた三体文明との闘いが始まった。超技術で監視されているため、地球が何か策を講じようにも、三体文明にバレてしまう。このままではただ座して侵略を待つのみ。どうすることもできない地球は、ある計画を思いつく。その名も「面壁計画」。三体文明も、人間の思考だけは監視することができない。選ばれた個人「面壁人」に地球のリソースと権力を自由にさせ、敵にはもちろん、味方にも悟らせないままに三体文明に対抗する策を実行させるのだ。地球全土から選ばれた面壁人は、次の四人。最も選出が妥当な面壁人といえる元アメリカ合衆国国防長官、ゲリラ戦で米国に勝利した経験のある南米国家の独裁的大統領、優れた頭脳を持ち複数のノーベル賞にノミネートする英国の科学者であり政治家、そしてその選出理由を本人も含めて誰も正確に理解していない一般人である主人公。一方、「面壁計画」を察知した三体文明は「面壁人」の頭の中にある策を見破る探偵「破壁人」を選出し、面壁人に対抗させる。面壁人VS破壁人の頭脳戦が始まる。
いやあー、どうです、めちゃくちゃ刺さりませんか? 人類最高の頭脳の持ち主が超高度な文明の敵に挑むというロマンあり、それぞれの講じている策とは何かというミステリ要素あり、敵側が探偵というミステリ捻りまであり、そして主人公が面壁人として選ばれた意味はというスケールの大きなホワイダニットあり。
もし興味を持たれた方は、まずは気合い入れて(単純に量が多いので))三体のⅠからお読みください。
3 「星を継ぐもの」ジェイムズ・P・ホーガン
すみませんねえ、ベタなのばっかりで。これまたクラシック。まあ、初心者向けのSFおすすめなので以下略。でもこれはマジでもし読んだことなかったら読んだ方がいいと思います。
ミステリ界の御大、島田荘司先生が「魅力的な謎ができればミステリは大半成功」みたいなこと(うろ覚え)を仰ってた気がするんですが、こいつはSFですがまさにそれだと思います。
月面で発見された宇宙服を着た人間の死体。年代測定をしたところ、なんと死亡推定「5万年前」。この謎からスタートするんだから、面白くないはずがないってことですよね。
あと、この作品のすがすがしいところは、結局全編にわたってその上記の謎を解く、ということに終始しているんですね。新たなる謎が出てきたりとか、別の事件が起きたりとかがほぼない。最初から最後まで、その最初に設定された謎を解くための調査と推理と議論で一貫しています。まさに、謎が素晴らしく魅力的だから、それで十分もつわけですね。もうミステリよりもミステリ的かもしれません。
ちなみに、私は続編の「ガニメデの優しい巨人」も結構好きです。巨大な謎に挑むというテイストは似てるので。その次の「巨人の星」までいくと別物なんですけどね。
4 「プロジェクト・ヘイル・メアリー」アンディ・ウィアー
星雲賞関係ばっかだなと思われるかもしれませんが、まあ初心者向け以下略。
にしても「火星の人」最高でしたよね。読んでない? だったらまずベストセラーの「火星の人」の説明をしとくと、全然ミステリ的じゃないですけどSFとして面白いですよ、超面白い。以上です。
で、同じ著者のこちらなんですけど、こっちは、記憶喪失の主人公が死体と一緒に宇宙船で目覚めるところからスタートという超ミステリっぽい導入なんですね。正直、その部分のミステリ的フックの部分は前半で解決してしまってミステリは終わっちゃうんですけど、じゃあそこから退屈になるんじゃないかというところで中盤から仰天の展開、なんと〇〇〇が登場して主人公とそいつの〇〇〇モノになり、まったくテイストの違うSFとして路線変更という衝撃的な構造です。
つまり、これはミステリ読者が読んで面白いというよりも、ミステリ要素で興味をひいといて読んでみたら中盤からミステリとは別の側面のSFならではの面白さがはいってきて、最終的にミステリ期待していた人をSF沼に沈めるための罠なんですね。是非罠にはまってください。
5 「酔歩する男」小林泰三
最後にほんのちょっとだけ個人的な嗜好を出しておきます。とはいえ、小林泰三作品はそもそも「ミステリ」「SF」「ホラー」と多ジャンルに渡るので、ミステリ読者へのSFとしては適しているとも思います。「アリス殺し」なんて特殊設定ミステリの傑作じゃないですかね。
さてこれはジャンルとしてはSFホラーです。SFの二大ガジェットはおそらく「宇宙」「時間」なんじゃないかと思ってるんですが、これまで紹介した作品は「われはロボット」以外宇宙ものです。そして、この「酔歩する男」は時間ものですね。時間ものといったらタイムトラベルなりタイムリープなりがよくあると思うんですが、これは違います。言うなればタイム酔歩です。これが恐ろしい。
この作品のミステリ的側面で言うと、「時間とは何か」という謎を解く話として読むことができます。壮大な謎ですよね。で、この「時間とは何か」という問いに対しての答えが、まあなかなか強烈です。時間と脳とみんな大好きシュレディンガーの猫を、こんな風にリンクさせるとは。
また、終わり方も独特というか、小林泰三作品の「後味が悪いというより薄気味が悪い」「クトゥルフ神話大好き」「ミステリの方法論をミステリ以外にも多用する」という三大特徴がフルに顕現してます。ちょっと予想外の結末というか、他の作家だとこんな風には終わらないんじゃないかと思います。強いて言えば筒井康隆作品ならちょっとありうる気がせんでもないです。
短編~中編くらいの長さですから読みやすいですし、小林泰三作品を読んだことがない方はこれとお決まりの「玩具修理者」からスタートするのがおすすめです。
というわけでミステリは読むけどSFはあんまり……という方がいらっしゃいましたら、SF面白い作品沢山ありますので、これを参考に是非SFジャンルにも進出してみてはいかかでしょうか。