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【コラムでも】倒叙物ミステリドラマの世界~古畑任三郎を語るby庵字

【Youtube動画】「倒叙物ミステリドラマの世界~刑事コロンボから古畑任三郎まで」で、庵字会長が用意してくれたレジュメを特別にコラム公開します!動画をご覧になりたい方はこちら。


【作品周辺の状況】
 放送時期:1994年(シーズン1)31年前。1996年(2)。1999年(3)。
 2006年(ファイナル)。シリーズ放送の合間に何度かスペシャル番組を挟みつつ、足かけ12年にわたって続けられた。その人気から未だにリメイクを望む声が上がるが、脚本を担当した三谷幸喜は「古畑は田村さんの役。田村さんが亡くなったいま、古畑の復活もありえない」といった内容のコメントをしている。


【倒叙ミステリドラマ】
 「倒叙ミステリ」犯人の犯行の様子を事前に読者(視聴者)に開示する形式。
・ほとんどの場合、「犯人が犯したミスの発見」「犯人しか知り得ない情報を無意識に自白(行動)する(していた)」が決め手として使われる。フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット、などとは別種の特殊なスタイル。
・犯人が事前に明かされ、探偵役も早い段階から犯人役を怪しみ決め打ちで捜査にあたるので展開がスピーディー
・「すでに分かっている犯人と探偵との対決」と構図がシンプル。複数人のアリバイ確認などのややこしい要素がない。などから、ミステリマニア以外のライト層がメインターゲットで、時間制約のあるドラマにぴったりの形式。
・倒叙ものの探偵役はたいてい刑事。犯行場面と捜査場面をシームレスに繋ぐために都合が良いからだと思われる。犯行が終わってから、さらに探偵役が事件に巻き込まれるという展開では冗長すぎるため。

【「古畑任三郎」について】
・脚本家の三谷幸喜が本作の企画を思いついたとき、主演は田村正和しかいない、と当初から決めていたが、「田村は刑事役を絶対にやらない」と関係者から聞いていたので諦めていた。が、ダメ元で「古畑」の脚本を田村に読んでもらったところ意外にも興味を持ってくれた。これについて三谷は「従来の刑事ドラマと違い、古畑が拳銃を撃つことなどせず推理だけで犯人を追い詰める、という内容に興味を持ってくれたのでは」と語っている。
・三谷自身もコロンボのファンで、コロンボの邦題「刑事コロンボ」にあやかって、シーズン1の番組タイトルは「警部補 古畑任三郎」と肩書きが付いていた。
・解決編に入る幕間に、古畑が視聴者に向けて語りかけるメタ演出がある。これがいわゆる「読者への挑戦」の代わりとなっている。が、倒叙ものであることから、完全に視聴者が推理可能な話ばかりではないため、「今回は、見ていてください」など、必ずしも「挑戦」的な意味合いを持たない回もある。必ず最後は「古畑任三郎でした」で締める。
・三谷幸喜は、「明智小五郎」「金田一耕助」など、日本の名探偵はかっこいい名字に野暮ったい名前を持つことが多い、として「古畑任三郎」の名前を設定した。
・「常に黒いスーツ、スタンドカラーのシャツ、ノーネクタイ」という古畑のスタイルは演じる田村正和が考案したもの。

~※この先、作品のネタバレがあります! ご注意ください※~

【オススメ作品紹介①】
「さよなら、DJ」(シーズン1 第十一話)

 ・「倒叙もの」の醍醐味、「犯人しか知り得ない情報を無意識に自白していた」タイプ。
 ・犯人役の桃井かおりの演技が素晴らしい。

~あらすじ~
 人気ラジオDJ中浦たか子(愛称:おたかさん)は、自分の恋人を奪った付き人の殺害を決意する。たか子は深夜の生放送番組出演のため付き人が運転する車でラジオ局に到着。番組終了まで付き人は車で待機していなければならない。たか子は自分が愛用している赤いカーディガンを付き人に貸す。
 局に入ったたか子は、警視庁の刑事が来ている、とスタッフに言われ、その刑事二人組と面会する。この刑事はもちろん古畑と部下の今泉。最近、たか子のもとに殺害予告の脅迫状が何回か送られてきており、それを心配したスタッフが呼んだのだった。番組開始時刻となり、たか子はスタジオ入り。古畑と今泉もそのまま局内に残り警戒を続ける。
 番組はいつもどおりに始まり、途中、覆面をしたコンビニ強盗が現金八万円を奪って逃走した、という第一報のニュースを挟みながらも続けられる。番組の途中でレコードをかける時間に、トイレに行く、と言ってたか子はスタジオを出る、や否や、ハイヒールを脱いで廊下を全力疾走。レコードの曲が終わるまでの時間内に駐車場まで往復して付き人を殺そうという計画だった。迷路のような局内を走り最短距離で駐車場を目指すたか子だったが、報道局の部屋の前でスタッフに見つかりそうになり身を隠す。報道局のテレビでは、ラジオでも第一報が流れたのコンビニ強盗のニュースが流れており、そのニュースでは、強盗はアニメ「天才バカボン」の「バカボンのパパ」のお面を被って犯行に及んでいたという詳細までが報道されていた。スタッフが席を離れた隙に外へ飛び出たたか子は駐車場まで辿り着き、車から出て喫煙していた付き人に「番組でかけるレコードを車内に忘れた!」と声をかける。付き人が車内を確認しようと背中を見せた隙を狙ってたか子は付き人を撲殺。すぐに局内に取って返し、なんとかレコード曲の終了までにスタジオに戻った。
 局内に詰めていた古畑は、駐車場で死体が発見された、と報告を受けて現場へ。被害者が普段たか子が使っていたカーディガンを羽織っており、背後から殴られていることから、捜査陣は脅迫状の件と結びつけて、「たか子と間違って殺されたのではないか」と考える。が、古畑は被害者の足下に火を付けられてすぐに消された状態の煙草が落ちているのを見て、「煙草を吸ったままでは応対できないような、吸い始めた煙草をすぐに消してしまわ
ないといけないような目上の人物と会っていたのではないか」と推理する。であれば被害者は犯人と顔を合わせていたはずで、犯人のほうでも付き人をたか子と見間違えるはずはないと考える。
 スタジオに戻った古畑は、たか子の様子がおかしいことに気付いて疑いを持ち、彼女が犯人であれば、殺害のチャンスはあのレコードをかけている最中にいったんスタジオを出た時間以外にないと考え、レコードがかかっていた時間の約3分間でスタジオと駐車場間との往復が可能かを今泉を使って実験する。が、どんなに急いでも往復に要する時間は7分が限度。たか子には完全なアリバイがあることになる。
 犯行を成功させ落ち着きを取り戻し、普段と変わらぬ放送を続けるたか子は、そんな中、トークの流れから番組内で第一報が流れたコンビニ強盗のニュースに触れて、「あれじゃあ、赤塚先生もつらいわぁね」と私見を述べる余裕まで取り戻していた。
 捜査に行き詰まった古畑だったが、ひょんなことから、ラジオ局に長年勤める掃除のおばちゃんから、関係者しか知らないルートを使ってスタジオと駐車場間を3分で往復可能なルートがあることを突き止める。あとはたか子が殺した証拠があれば……。
 そうこうしているうちに時刻は早朝となり、ラジオ局に朝刊が配達され、古畑はそれに目を通し、コンビニ強盗のニュースが報じられているのを目にし、たか子が犯人だという証拠を発見する。

~解決編~
 古畑は放送を終えたたか子と二人きりになり、借りてきた番組内容を録音したカセットから、たか子がコンビニ強盗のニュースに触れたときの場面を再生する。「あれじゃあ、赤塚先生もつらいわぁね」このたか子の言葉を捉えて問い詰める。
 「この赤塚先生とは?」
 「赤塚不二夫先生に決まってるじゃない」
 「どうして赤塚先生がおつらいと感じたのですか?」
 「だって、コンビニ強盗がバカボンのパパのお面を被ってたから……」
 そこで古畑は、このコンビニ強盗のニュースは、ラジオで流れた第一報では「覆面を被っていた」というだけ、具体的にどんな覆面だったかとまでは報じられておらず、それがバカボンのパパのお面だったと報じたのはテレビのニュースだけだったと確認できている。なのに、スタジオとトイレを往復しただけのはずのあなたが、どうしてコンビニ強盗が被っていたのがバカボンのパパのお面だったと知っていたのか。それはあなたがコンビニ強盗のニュースをテレビで見たから。最短ルートで駐車場まで行く最後の報道局で見たニュース内容を思わず生放送の臨時ニュースで口にしてしまったからだ、と看破する。

~終わりに~
 ・脅迫状が本物でそれをたか子が利用したのか、そもそも犯行の布石としてのたか子の狂言だったのかは明かされない。
 ・犯行時、犯人は持ち込みのデモテープを聴いていたなどのアリバイ工作もあるが、今回は割愛。
 ・現代なら「こっそりスマホのテレビで見て知っていた」などの言い訳が出来てしまう。作中でも「携帯テレビはお持ちでないですね?」と古畑が確認する場面がある。
 ・犯人の中浦たか子は、人生を達観したサバサバした女性として描かれているが、そんな人が、恋人をとられたから、という俗物的な動機で殺人を犯すギャップがいい。

【オススメ作品紹介②】
「VSクイズ王」(シーズン2 第六話)

 ・倒叙ものだが、「密室からの脱出」というハウダニット。犯行現場の異様な状況という「ホワイダニット」まで盛り込まれた特殊な構成。
 ・映像作品ならではの面白さ。
 ・倒叙ものだが、探偵役(古畑)が偶然現場に居合わせており、事件も計画殺人ではなく過失だったという珍しいパターン。

~あらすじ~
 クイズ番組で連戦連勝し「クイズ王」と呼ばれる千堂謙吉は、実は半やらせにより王座を維持し続けていた。これは「番組でスターを作りたい」というプロデューサーの意向で行われていたものだったが、さすがに千堂が勝ちすぎたため、そろそろ潮時だ、とプロデューサーがやらせの打ち切りを告げられる。今の地位を維持したい千堂は、何とか問題のカンニングができないかテレビ局の衣装部屋に入り、その行為に見とがめられたスタッフと揉み合いになり殺害してしまう。部屋から逃走しようとした千堂だったが、その部屋の前の廊下では、コメディアンの「トッチャンボーヤ」がずっとネタ合わせをしていた。このまま部屋を出ては間違いなく目撃されてしまう……。
 一方、視聴者参加のクイズ番組に出演した古畑だったが、ストレートで一回戦負けしてしまい、帰ろうとして衣装部屋の前を通り過ぎる。そのとき、衣装部屋では、鍵が掛かっていて入れないからと守衛が合鍵を持って鍵を開けようとしている最中だった。ドアが開けられると、中でスタッフが死体となっていた。どういうわけか、その衣装部屋の前にはラーメンの出前持ちが何人もいて、しかも、部屋にはたまたま衣装部屋にお土産として置かれていたクサヤがばらまかれていて、ひどい臭いが充満しており、守衛も出前持ちたちもみな鼻を押さえながら現場を出て行った。ドアの鍵は死んでいるスタッフが身につけており、死体発見時、衣装部屋は完全な密室だったことが分かる。衣装部屋の前にいた出前持ちたちは、死んだスタッフが呼んだらしく、三軒のラーメン屋から出前を取っていたことが分かった。
 ある事柄から千堂が怪しいと踏んだ古畑だったが証拠がない。そんな折、今泉から、トッチャンボーヤが用意されていた衣装がなくなっていたため、急遽ネタ合わせしていたものとは別のコントをやらざるをえなくなり、出演したお笑い勝ち抜き番組で敗退した、という話を聞く。トッチャンボーヤに聞き込みをしてみると、なくなっていたのは出前持ちの衣装だったという。

~解決編~
 スタッフを殺してしまった直後、トッチャンボーヤがネタ合わせをしていたため逃走できなくなった千堂は一計を案じた。部屋に出前持ちの衣装があるのを見つけた千堂は、スタッフの振りをして近所のラーメン屋から片っ端に出前を取って、部屋中にクサヤをばらまいたうえで出前持ちの衣装を着て、ドアのするそばで待機していた。守衛が鍵を開けて中に入った直後、大勢いた出前持ちのひとりに紛れ込み、さも最初からそこにいたかのような振りをして密室から脱出した。部屋にクサヤをまいたのは、嫌な臭いを充満させて、ハンカチで鼻を押さえることで顔を見られなくするためだった。映像では、実際に千堂(演:唐沢寿明)が出前持ちに扮してハンカチで鼻を押さえて部屋を出ているところがしっかり映っている。

~終わりに~
・犯行時刻に千堂が現場に居たということを看破する場面もあるが今回は割愛。
・千堂を怪しむきっかけがるがそれも割愛。
・殺害されるスタッフを演じていたのは「100分で名著」でおなじみの伊集院光。
・このクイズ番組の決勝戦は、対戦する同士が相手に即興でクイズを出し合う、という形式だが、これは正答だったかどうかの確認が取りにくく問題のある形式のはず。
・密室を脱出する際の犯人が映っていると解説したが、この回の解決編への幕間で、古畑が「今日の放送をビデオに撮っていた人はラッキーでしたね。あとで見返してください」とメタ発言をする。

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