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「文学フリマ東京41」に出店して思ったこと

 こんにちは。会長の庵字です。
 今回のコラムは、去る11月23日に開催された「文学フリマ東京41」に出店したときの模様や、文学フリマそのものについても、個人的な見解を交えて書いていきたいと思います。

 こんにちは。会長の庵字です。
 今回のコラムは、去る11月23日に開催された「文学フリマ東京41」に出店したときの模様や、文学フリマそのものについても、個人的な見解を交えて書いていきたいと思います。

「新生ミステリ研究会」の文学フリマ参加は、今回で13回目を数えます。東京だけに絞っても4回目ですが、「文学フリマ東京41」では、私は「新生ミステリ研究会」ではなく、「本格ミステリ庵」という個人出店の形で参加いたしました(ちなみに菱川副会長も、今回は「評論|ミステリー」カテゴリで、その名も「新生ミステリ評論会」の名前で参加しておりました)。こうして今回、初めて「新生ミステリ研究会」ではない形で参加して感じたことは、「『新生ミステリ研究会』まあまあ名前が知られてきたな」ということです。というのも、「本格ミステリ庵」は「新生ミステリ研究会」とブースを隣接したのですが、「新生」に訪れてくれても、こちらは素通り、という方がけっこういらしたためです(笑)。「ミステリー」は「小説」カテゴリの中でも決してサークル数は多くないほうで(地方開催では「小説|ミステリー」の出店数は一桁台ということはざらです)、その中でも2年のあいだに13回出店し、しかも、かなりまとまった種類の本を置いているということで、ミステリ好きの方々の目に留まりやすかったことが要因かなと思いました。継続は力です。あらためて、ブースにお越しいただいた、無料配布を受け取っていただいた、本をご購入いただいた方々には心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

「新生」に知名度は劣りこそすれ(そもそも初出店)「本格ミステリ庵」もけっこう頑張ったと思います。新潟県に在住されている方が訪れてくれて、「新潟が舞台のミステリ」ということで興味を持ってもらえてお買い上げいただいたこともありました。また、以前の「文学フリマ札幌10」のコラムで、「小学校高学年くらいの女の子が『妖精館殺人事件』を親御さんに購入してもらっていた」というエピソードを書きましたが、今回も、小学校高学年~中学生くらいに見える女の子が、やはり親御さん同伴のうえで同作をご購入いただいたということがありました。がっつり人が殺されるミステリ(そもそもタイトルに「殺人事件」と入っている)ですが、大丈夫でしたでしょうか。首都東京でも、若いミステリファンの息吹を感じ取りました。末永くミステリを愛していただけると嬉しいです。

 東京はとにかく会場が広く、出店ブース数も膨大なため、ひとつのブースでゆっくりしていく、という来場者は他の会場に比べて少なかったように感じました。せっかくなのでミステリ談義でも、と思っても、買い物を済ませるとすぐにブースをあとにされる方が多かった印象です(「新生」でお客様の口から「倉阪鬼一郎」の名前が出たのを耳にして、思わず横から口を挟んで話に加わってしまったことがありました。その節は失礼いたしました)。また、毎回配布している「無料配布短編ミステリ」の受け取り率も高くはありませんでした。「それどころではなく、限られた時間の中でとにかく目当てにブースに」という来場者が多かったためでしょうか。今後、(特に東京においての)無料配布のあり方については考えなければいけないのかもしれません。

 さて、ここから、冒頭に書いた「文学フリマそのものについて」的な話になるのですが、とにかく文学フリマ東京は人が多いです。出店者も一般来場者も他地区の開催とは文字どおり桁が違います。しかしながら、先に書いたように無料配布の受取率は、他地区の開催よりもずっと低い数値を叩き出しました。「東京の人は冷たい」という地方人の印象が当たっているのではなく、これも先に書いたように、「みんな忙しいから」に尽きるのだと思います。
 東京の会場は広大です。限られた開催時間(5時間)内ですべてのブースを吟味して回ることなど到底不可能です。そのため、「目的の本を購入して回る」というタスクをこなすだけで5時間などあっという間に溶けてしまうでしょう(人気ブースであれば購入のために並ぶこともあるでしょうし、人気作家のサイン会も開かれていたそうですから、それも目的に含まれるのでしたら、さらに時間を取られます。物理的だけでなく体力的な問題も当然あるでしょう)。全国で開催される文学フリマの中で、東京だけが入場料を徴収しています。でしたらなおのこと「入場料を払ったからには目的(本、サイン)は絶対に達したい」という心理も働こうというものです(入場料は、「来場者数の増加への対応」も目的のひとつとして導入されたものだと記憶しています。ですが、この思惑とは裏腹に、文学フリマ来場者数は(東京に限らずですが)増加の一途をたどっていますから、この目的には合致しない施策だったのではと思わなくもないですが)。

 会場も、東京ビッグサイトという、東京ビッグサイトに行く、という目的がなければ行くことなどありえない場所ですから、「文学フリマというイベントが開催されていることを偶然知って、何かのついでにふらっと立ち寄る」ということは望めないですし、万が一、東京ビッグサイトに「ふらっと立ち寄れる」場所にいたのだとしても、入場料が足かせになります。今開催から、当日料金はスマチケで1,350円、窓口料金なら1,500円に値上げされました。「内容はよく分からないけれど、ふらっと立ち寄ってみる」にはハードルの高い金額だと思います。

 文学フリマ東京41開催後、SNS上などで、参加者(主に出店側)の嘆きを何度か目にする機会があり、そのほとんどが「人が多すぎること」に起因するものでした。ですが、この流れを止めることはもう出来ないでしょう。文学フリマ東京は、もう「そういうもの」として我々は向き合っていく必要があります。本離れが声高に叫ばれるこの時勢に「文学」と名の付くイベントが拡大の一途をたどっている、というのは、むしろ喜ばしい現象なのではないでしょうか。一部プロ作家のみに人気(来場者)が集中している、という意見も出ているようですが、そういった人気作家がこれだけの人を連れてきてくれているのですから、むしろありがたいことです。その中の何割かが、「どれ、ちょっくらアマチュアのブースでも冷やかしにいってやるか」とプロ以外のブースに立ち寄ってくれることもあるでしょう。一般来場者数は多いに越したことはないはずです。

 でも、やっぱり文学フリマ東京は肌に合わない、という方(出店者)には、私はこう言いたい。「地方に行きましょう」と。全国津々浦々(香川と広島は未踏ですが)の文学フリマに足を運んだ私の所見では、「東京が異常なだけ」です。他の開催地はこんなではありません。当然人は少ないですし、会場も東京ほど広くなく、入場料もかかりません(今のところ)。雰囲気も俄然アットホームですし、無料配布もたくさん受け取ってくれます。ふらっとブースに立ち寄ってくれる来場者の方も大勢いらっしゃいます。来場者だけでなく、出店者も東京が異様に多いということは、東京にしか出店していない方が大勢いるということのはずです。そんな方々に、札幌の、岩手の、福岡の文学フリマの空気を味わっていただきたい。特に岩手の会場は、天井の低い広めの会議室で、「文学フリマの原風景って、こういうものやったんかもしれへん。ここは文学フリマのイーハトーヴなんや!」と思わせる独特の雰囲気があります。東京と比較して、同じ「文学フリマ」の名前を冠するイベントだとはにわかに信じられないくらいです。

「いや、地方へ行くと利益が出ないし……」と二の足を踏む方もいらっしゃるでしょう。事実、よほど売り上げの見込める人気サークル、人気作家でもなければ、東京から地方に出張して利益を出すことはかなり難しいでしょう。来場者が(東京に比較して)少ないということは、購入者の絶対数も比例して少なくなるということですから。この問題を解決するすべは、ただひとつ。
「なに? ジョジョ、地方の文学フリマに出張しても利益が出ない? 逆に考えるんだ。『利益なんて出なくていいさ』と考えるんだ」
 ジョースター卿の言いたいことは、こういうことです。「文学フリマ開催地で観光してしまおう」。「観光旅行」で利益を出そうとする人はいないでしょう。観光とは消費行動だからです。つまり、「文学フリマのついでに観光」ではなく、「観光のついでに文学フリマ」と考えるのです。文学フリマの開催はほぼ日曜日ですから、前日に前乗りして、土曜部は目いっぱい観光に充てるのです。地方の文学フリマの開催時間は、たいてい11:00~16:00です。撤収作業を終えても、17:00台には会場を出られるため、飛行機や新幹線などの公共交通機関にもじゅうぶん間に合うでしょう。一泊二日の文学フリマ小旅行。土曜日は名物を観て、ご当地の食を味わい、日曜日は文学フリマに出店し、その地元の文学好きとふれあう。こんなに素晴らしい旅行があるでしょうか。
 さア、地方へ出ましょう。札幌コンベンションセンターが、岩手県産業会館が、博多国際展示場が、あなたを待っています。東京ビッグサイト何するものぞ。今こそ、パワー・オブ・ローカル。地方は、あなたを求めています!

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