コラムを更新しました:新生ミステリ研究会メンバーのおすすめノワール作品紹介!
新生ミステリ研究会メンバーのおすすめノワール作品紹介!
片里鴎です。久しぶりにコラムを書きますが、いきなり何の話かと思われるかもしれません。「Uncover the Smoking Gun」について語らないもなにも、そもそも何それという人も多いんじゃないですかね。さて、片里がまたマニアックなことを語ってマウントをとろうとしているなと冷ややかに思われている方も、まあしばしお付き合いください。
そもそもこの長い英文は何なのかというと、ゲームです。
ゲームと侮るなかれ、というかミステリの文脈でゲームを軽んじる人は今やそんなにいない気がします。代表的なので言うと「うみねこのなく頃に」がミステリorアンチミステリの文脈で詳しく論じられたりしてね(私も結構うみねこは好きです)。
ところが、このUncover the Smoking Gunは、少なくとも日本ではあまり語られているのを見ません。それどころか知名度が不当に低い気がします。個人的に好きなマニアックなゲームを熱く語りたいから過小評価とかのたまってるのか、と思われるかもしれませんが、これ、本当に重要な作品だと思うんですよ。
一体何がそんなに重要なのかというと、これがいわゆる生成AIを使用しているゲームだからです。
いまや生成AIというテーマはあらゆる分野で語ることを避けられないものだと思います。小説界隈だとweb小説をAIで書けたりだとか、いやいやプロンプト書く方が面倒だから自分で書いた方が早いだったりとか、ミステリ小説はめちゃくちゃ苦手っぽかったりとか、色々と言われてますよね。
で、このUncover the Smoking Gunは生成AIがゲーム内容に使用されています。生成AIでゲームを作っているんじゃあなくて、内容に使われているんです。どんな風に使われているのかというと、これは私たちの夢がかなえてくれてるんです。
ミステリで探偵役の振舞に「まだるっこしいなあ。こういう風に質問しろよ」と思っていたことないですか? これはそれができます。選択肢を選ぶんじゃあないです。関係者に何て質問するか、あなたが打ち込むんですね、文面を。そしてそれに対して関係者がどう返してくれるか、これにAIが使用されているんですね。
関係者に気になっていることを聞くもよし、恋愛相談するもよし、クイズをしてみるもよし、しりとりをしようと誘ってみることも全部自由です。ちなみに、事件自体は結構作りこまれてる感があります。事件自体を生成AIで作成しているわけではないので、そこはご安心を。あくまでも関係者との会話が生成AIによるものってことですね。
さて、ここまで読んだ中で、ある程度生成AIがどんなもんなのか肌感覚で分かっている方の中には「それってやりとりが不自然になるんじゃないの? それに嘘つくからミステリと相性悪いだろ。生成AIってそこまで完璧じゃなかったと思うんだけど」という人もいるんじゃないですかね。まさにその通りです。生成AIって間違ったことを言ったり、やりとりが不自然になったり、どう考えても理論が破綻していたりしますよね(ミステリ小説書かせようとするとうまくいかないのはここらへん)。
で、私がこのUncover the Smoking Gunがもっと話題になるべきだと思っているのはそこで、このゲームはこの問題をある3つの工夫でクリアしているんですよ。これ、本当に発明だと思うんですけど、皆もっとこのゲームについて語っていないなあ、という。では、その私が感動すらした工夫は以下の3つです。
①そもそも相手がAI(ロボット)
②嘘や論理の破綻をシステムに取り込む
③テーマ化
①について、まずゲームでは被疑者関係者が全てロボットです。AI搭載ロボットに対して人間の主人公が聞き込み・捜査をしていくという内容なんですね。ちなみにここからも分かるように、この世界ではロボットが人を殺したりしてます。ともかく、そもそも相手がAIなんだから、「何か返答がAIっぽいなあ」「LLMにありがちなやりとりの不自然さがあるなあ」とか、そりゃあそうなんですよ。だってAIなんだから。AI相手に聞き込みしてんだから。
②について、生成AIって論理が破綻しててて、それを指摘してもなかなかミスを認めなかったり、ハルシネーションとかいって普通に嘘をついたりしますよね。それを事件の捜査でされたら無茶苦茶じゃないですか。捜査も推理もできないって。ところが、このゲームでは事件についてそのAIに不利なことを突っ込むと、嘘をついたり論理的に破綻したり無茶苦茶言ったりということをむしろ積極的にするようにしてあります(多分)。で、それをはっきりと視覚的に分かるようにしてるんですね。その時にはセリフの色が変わったり目が光ったり。これによって、嘘や滅茶苦茶を言い出した=相手の痛いところを突いた、すなわち事件の核心に迫っているという情報へと変換されるわけです。
③について、このゲームは複数の事件の連作で、最後の事件で今までの事件が全てつながって伏線回収という、まあ結構よくある形式になります。で、その一連の話に通底しているテーマが、「ロボット(AI)とは、人間とは」みたいな感じなんですよね。だから、AIとのやりとりとの不自然さ自体がまるで物語的には自然なこととして最終的に着地する、ような気持ちでゲームを終えることができました。言い方は悪いけど、最終的に強引に説得された、みたいな感じでした。まあ、ミステリなんてプレイヤー(あるいは読者)を強引だろうとなんだろうとフェアで論理的だと説得したもの勝ちですからね。
というわけで、以上の工夫により、生成AIを使っても物語に違和感を抱かないつくりになっているんですね。いやー、いいですねえ。こういう作品をやって思うのは、やっぱり私って、ミステリにおいては奇想天外なトリックや謎も当然好きなんですけど、個人的に心惹かれるのはそのトリックを物語上成り立たせるための「工夫」なんだなあと思います。その工夫が細かい時もあれば、この作品のように全体像、システムといったメタ的なところから始まっている大掛かりな工夫もあるわけですね。これはどちらが優れているというよりも、成り立たせたいものによってどのレベルの工夫が最適かが違うってことでしょうね。
私も変な謎とかタイトルとかから話をつくっちゃったりするタイプなんですけど、こういう「工夫」にこだわっていかなければなあ、と自省いたしました。
ミステリ書きの皆さんは、どの作品の「工夫」がお好きでしょうか? 考えたこともないや、という方はぜひ一度、ミステリのトリックやストーリー以外に「工夫」に着目して読書してみてはいかがでしょう。新しい発見があるかもしれません。ないかもしれません。