


新生ミステリ研究会メンバーのおすすめノワール作品紹介!

【Youtube更新】#文学フリマで買った本 『赤沼家の殺人』byKan 勝手に感想語ろう会

【著者】尾ノ池花菜
【あらすじ】
アメリカの一部となった近未来日本。
米横須賀基地の跡地に建てられたヨコスカプリズンで謎の遺体が発見された。
女子高生の笹川和歌子は、探偵インターンとして、父親で探偵の笹川雄介と蝶野刑事とともに捜査を開始する。そこに米国から派遣されたAI探偵のラルフが現れた―。
被害者はなぜ死んだのか。
ヨコスカプリズンに隠された陰謀とは。
AIと人間が対峙する社会派エンタメミステリー、ここに爆誕!
【販売】
文学フリマ(東京40)
試し読み
一
この時代の女子高生は難しい― 。
笹川和歌子はいつになく気がふせっていた。外は異常気象と呼ばれる季節外れの台風で大荒れ。高校の勉強は塾よりもつまらない。かと言って塾は試験対策に特化した暗記ばかり。勉強に集中しようにも、友人が競ってInstagram の更新を続けるため、サボりの口実とばかりに投稿にリアクションを続けていた。明後日は学期末テストなのに、気持ちはフワフワしていた。浮き草、根無し草の生き心地とはこんな感じだろうか― 。
私は塾に行く気力はわかず、父の経営する「Kinro Cafe 」で甘いカフェオレをすすっている。もともとは勤労カフェという名前だったが、あまりにもダサいので私が変えさせた。私は四人テーブルに一人で座って、現代史の教科書とノートを広げていた。周囲に対して勉強をやっていますよ、というパフォーマンスをしている。本日夕方のお客様は、近所のおばさんグループだけで、噂話や旦那さんの悪口、小口投資の話で花を咲かせている。カウンターでコップを磨いている父親も夕方の時間帯は暇そうだ。
父親の名前は笹川雄介。でも私の本当の父親、生みの親という意味での、ではない。( 私がユースケのことを父親だと思っているから、ある意味「本当の」父親なのかな。) 私は、六歳まで養護施設にいたが、運良く笹川夫妻に引き取られた。本当の生みの親は知らない。ユースケは、カフェのオーナーさんだが、本職は探偵らしい。「らしい」というのは、私はユースケが探偵業をやっているところを見たことがないからだ。たまにいなくなった飼い猫探しや、引越しの手伝いをしているようだが、それを探偵と呼べるのか、果たして疑問である。もともとは刑事をやっていたらしいが、性に合わず辞めてしまったそうだ。顔はそこそこ。いわゆるイケオジのカテゴリに入るのかな。周りの親と比べてそこそこ若いのと、本人も若作りをしているのと、少し顔立ちがハッキリしているため、イケメンの部類に入る。友人からは羨ましがられ、近所のおばさんの中にはファンになってくれる人もいるらしい。
お母さんは、笹川美紀。通称、プリンセス・ミキ。別にやばいおばさんとかではなく、そこそこ売れてるマジシャンで、今アメリカ本州で全米マジックショーツアーの真っ最中だ。最新のプロジェクションマッピングや、ドローン演出などド派手な舞台装置が受けて、マジック界を先導しているらしい。そのためいつも世界を飛び回っており、家にはなかなかいない。私は毎日ボイスチャットでやりとりをしているので、寂しさを感じたことがなかった。お母さんも、えげつない美人である。ブスでない両親がいるばかりに、私も身なりには気をつけなきゃいけないと思ってはいる。ダイエットも、しな、くちゃ。ネ。
「ワカコー、余ったプリン食べる? 型崩れしたやつだけど」
ユースケがおもむろに話しかけてきた。おやつ(飴) が出るということは、勉強に集中しろ(鞭) という合図だ。ユースケの得意な飴と鞭作戦だ。その手には乗ってやろう。
「食べる」
ダイエットよ、さようなら。また逢う日まで。ワカコの目の前にクリームたっぷりのプリンが置かれた。ユースケお手製のKinroプリンだ。味は普通のプリンであるが、プリンはそもそもが美味しいので、ご褒美感がある。
ユースケがこちらを覗き込んで言う。
「はい、ところで明後日は」
ほらきた。最後まで言わせてなるものか。
「期末なのでガンバる」
「はい、頑張れー」
プリンを食べてから勉強しよう。ワカコはパスタ用の大きなスプーンでプリンを頬張った。
明後日のテスト科目は、物理、英語と現代史だ。特に現代史は、ワカコの得意な科目である。プリンを食べ終えて、ワカコは現代史の復習に取り組んだ。
二〇七二年。現在、日本は、アメリカの準州となって、アメリカの一部となっている。アジアでは、韓国とフィリピンも日本に次いでアメリカの一部となった。ワカコが二歳の時に、日本政府はGDP世界九位へ転落、落ち続ける円の価値、人口減少と高齢化、ロシアや中国とのサイバー紛争や双方の民間人の衝突による突発的な紛争、自衛隊の日本軍への転身と米軍への編成など、色々あった。当時の総理大臣がが「もうアメリカの一部になったほうが合理的じゃね?」ということで国民投票を行った結果、日本はアメリカになることを選んだ。( といっても無投票もかなり多かったらしいが。) アメリカも家来が欲しかったのか財源が欲しかったのか、準州化を歓迎して、様々な取り決めによって今に至る。
生活の変化としては、英語が公用語化し、街には英語と日本語の併記が増え、通貨はドルになり、多様な移民が増えた。ワカコにはよく分からないが、多少生活は豊か(?)になったらしい。ワカコは英語が好きなので、いつか母のようにアメリカに旅立ちたい、そのために大学はアメリカ本州に行きたいと夢見ている。夢を叶えるためには、勉強をしないといけないのだ。
「ふぅー、勉強やるかー」
「お、やる気になってくれたみたいで偉い」
「あ、そういえばユースケ」
「ん?」
「次の期始めのレポートの一つに、職業体験があるんだ。本屋とかスーパーとかに申し込んで、インターンして、レポートを書くやつ。あれ、カフェの仕込みとか接客とか多少手伝ってるから、それ書くのでもいい?」
「なんと! そんな面白いことやって評価されるのか。いいな、今の女子高生は。もっと早く言ってくれれば、いや、まだ間に合うか」
「いーじゃん。別に繁忙期とかでもないし、お小遣い千円でいつも働かせ放題じゃん」
「カフェのことじゃない。ワカコ、興味ないか」
「何に?」
ユースケがにんまり笑う。この顔は良くないことを企んでいる顔だ。嫌な予感しかしない。
「探偵にさ」
私は五秒くらい反応ができなかった。ユースケはニコニコとこちらの様子を伺っている。
「た、たんてい?」私の声は上ずってしまった。
「そう、探偵。ちょうど大きな事件の依頼があったんだ」
「また猫探し?」
「違うよ!」
「なら、犬?」
「犬でもない! ワカコ、今週末空いてるか」
「期末後だから空いてるっちゃ空いてるけど」
「ならちょうどいい。遠出する準備をしとけな」
「遠出ってどこ行くの?」
「ヨコスカプリズンさ」
ヨコスカ…… プリンー?(プリンはさっき食べたやつだ。)
―ヨコスカプリズン。
ますます嫌な予感しかしない。ワカコは氷が溶けて薄くなったカフェオレを飲み干した。でも、ちょっと、オモシロソウ。しかも目を引く職業体験レポートを書くことができれば、成績も上がるかもしれない。
「んー。行こうかな。」
私はユースケに好奇心を悟られないように、ためらいがちに言った。内心はすごくワクワクしていた。
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